雨露通信(本館)

70's 好きなトラックメーカーの記録から

「Kickstarter」でアルバム制作資金を調達したMark de Clive-Loweのトークショー&ライブ

5/20にMark de Clive-Loweのトークショー&ソロライブ@渋谷Roomに行ってきました。深夜でなく19-23時という時間帯が、社会人にも優しいイベントだったのでw

※以下の文章に相違がありましたらご指摘ください(トークショーメモ部分は、かなり意訳含んでます)

 

人物紹介

Mark de Clive-Loweは日本人の母とニュージーランド人の父を持ち、超絶なピアノテクニックを持ちながら、ブロークン・ビーツをベースとしたクラブミュージック界隈で活躍するキーボーティスト/クリエイターです。 ぼく自身は2005年頃初めて聴き、その場でリズムからキーボードまでサンプラーにループさせ、作り上げる即興ライブに圧倒されて以来の大ファンです。アルバムも何枚も出ていますが、おそらくこれが一番聴きやすいと思います。

Tides Arising

Tides Arising

 


Tides Arising - Mark de Clive-Lowe - YouTube
Cafe Del Mar - Mark De Clive Lowe - Day By Day ...
MARK DE CLIVE LOWE - Move On Up - YouTube

そして、これが即興ライブの様子。ゼロからリズム、ベース、コード、リフレイン、ソロフレーズなどを組み上げて行きます。ひとりで次々とこなし、気づくと、違う曲モチーフに展開されていくのが驚異的。


Mark de Clive-Lowe Transcend Me (REMIX:LIVE ...

 

 

クラウドファンディングでアルバム制作資金を調達するノウハウ

これだけの個性とクオリティを持ち、最近では、ドラマーなら知らないヒトはいないであろう、あのハービー・メイソンのソロアルバムでもプレイ。そんな彼が、特定のレーベルからではなく、自主制作、しかもクラウドファンディングを選んだことは、音楽業界ではとても注目されていました。そして昨年11月、ものの見事に資金調達に成功、この5月に販売が決定し、そのリリースツアーとして今回の来日となったわけです。

資金調達から制作まで全てが新しい マーク・ド・クライヴ-ロウ - SankeiBiz

 

今回のトークショー兼ライブでは、Kickstarterというクラウドファンディングを使った制作秘話も披露されるということだったので、今後の参考のために聴いてきました。ざっくりメモを公開すると、こんな感じです。

 

クラウドファンディングを選んだのは、作り手である自分が、カネとクリエイティブをコントロールするため

  • レーベル契約しても、金がないと言われる
  • 制作費が想定より余計にかかれば、プロモーション費が削られる
  • つまり、自分の想定以上に支援してくれない
  • そこで、特定のレーベルと契約するのではなく、クラウドファンディングを選択した
  • クラウドファンディングは、支援者が「直接応援する」ため、彼らとの距離がより近くなり、支援者にとってもクリエーターとの距離が近づく良い仕組みだと思う

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※Mark de Clive-LoweのKickstarterページ

 

 

クラウドファンディング資金調達する前に、緻密にシミュレーションした

  • Kickstarterを使った資金調達プロセスは、大統領選挙に立候補して「自分に入れてください」とお願いするようなもの。そのためのアピールは、大変だった。人生で一番難しいコトだった
  • 結果論になるが、ファンの3%しか投資してくれないと思った方が良い。残りの97%は、Facebookで「イイね」を押してくれるだけ(ちなみに、彼の現在のFacebookページファン数は約2万人)
  • 自分のコアファンは、そのうち350人くらいと試算
  • その人たちが、50ドル平均で投資してくれるとシミュレーションして、資金調達額を決めた
  • 実際には376人が支援してくれた 

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※Mark de Clive-LoweのFBページ

 

 

クラウドファンディングを起案してから成立するまで

  • Kickstarterの起案期間は1ヶ月
  • 最初は資金調達に勢いがあった
  • ただ、待つだけでなく、継続して発信し続ける必要がある。発信し続けることで、支援者とのリレーションが強くなる。そのため、動画を週1回発信した
  • 今回のアルバムの空気感が伝わるよう、グランドピアノも使って撮影。この動画が、様々なメディアで拡散された
  • 起案中盤の、中だるみ対策が難しかったが、終盤は、もう一度盛り上がってくれた


Mark de Clive-Lowe One Take: Brukstep - YouTube

 

 

起案してみて良かったと思うこと

  • 今回のツアー中、ベルリンでは見ず知らずの人が、「きみに投資したよ!」と話しかけてくれたことがあった。ファンがダイレクトに反応してくれるのが、嬉しい
  • どんなにファンが増えても、できる限り現場でファンと触れ合いたい。音楽をやる者として、ファンの存在が自分を支えてくれている

 

※参考までに、Kickstarter側へのマージンは成立金額の10%だそうです。

※彼の言う「支援者率3%」というのは、なかなか面白い分析です。イノベーター理論でいうところの、イノベーター2.5%にも通じるものがありそうです。

 

 

資金調達したあとの制作プロセス

制作プロセスは相変わらず彼ならではで、 

  • プリセットサンプリング音源はなし
  • レコーディングセッションしながら、ループサンプリングしたり、リズムは単音サンプリングしたり
  • リズムは単音サンプリングからリアルタイムで打ち込み、その他の楽器パートもループでどんどんリアルタイムで打ち込む
  • ミックスもリアルタイムで行う

・・・やろうと思っても、なかなかできるもんじゃないです、これ。変態ですw

 

 

【まとめ】このノウハウを水平展開するには?

Mark de Clive-Loweの場合、ほとんどの方が彼を知らないと思いますが、それでも既にアルバムも数多くリリースし、プレイヤーとしてもコンポーザーとしても、リミキサーとしても「その筋では熱狂的なファンがいる」アーティストです。FBページで2万人集めてるわけですからね。

それほどの彼でさえ、支援者は350人強、支援額にして200万円に過ぎません。しかも半分以上が20ドル(約2,000円)以下。ぼくが想像していた以上に、高額リワードに支援がつきませんでした。個人的にはパーソナルレッスンの権利とか、名乗り出るヒトがもっといたんじゃないかと思っていたんですよね...。

その一方で、日本におけるクラウドファンディングでは、50万円が起案の上限目安という説もあります。クラウドファンディングのKSF(成功の肝)は、、、

  1. 起案者の熱意と継続的な発信力
  2. リワード(見返り)の魅力度
  3. 無理のない起案額

というのが、これまでウォッチしたり、セミナーを受講してみてのまとめです。

 

今回のケースでいうと、1の「熱意と発信力」はとても素晴らしい。起案ページを見ればその丁寧な説明、継続的な動画発信が見てとれます。

特に、彼の場合はYouTubeにチャンネルを持ち、ライブ映像、スタジオ映像などを頻繁にアップしており、映像編集ノウハウを既に持っていました。これは大きなアドバンテージだと思います。

 

次に2の「リワードの魅力」ですが、今回はかなりチャレンジングなリワードを持ってきたと思っています。アルバム1枚といえば、まるごと配信で1,000-2,000円程度。これ以上のリワードに支援するヒトは相当なマニアとも言えます。今回のケースでは、そのマニアがもうちょっと殺到すると踏んだのではと思います。ぼく自身もこれはいけるのではと思っていたのですが、意外にも支援が少なくて残念。アルバム1枚の起案に対して15,000円相当でも支援少ないのか...、という印象。この設定は、もう少し試行錯誤がありそう。

 

そして3の「無理のない起案額」。ここも相当チャレンジングな目標額で来たなと思います。これまでの実績とアーティストとしてのクオリティがあるからこそ、成立した額かなあと思います。リワードの設定に多少の狂いがあったとは言え、シミュレーションどおり目標金額を達成できたのですから、スタジオアルバムを求めているファンは想定どおりしっかり全世界に存在したわけです。それだけの緻密な計算ができていたところが「凄い」としか言いようがありません。何よりも支援者とのリレーションは間違いなく強まるはずで、支援者がインフルエンサーとして発信してくれる期待も持てそうです。

 

ここまで考えると、先ほどのKSF3点に加えて水平展開のポイントとしては、

  • そもそもクラウドファンディング起案を考える前に、まずは活動している内容の発信力・編集力を高めることから始める。何の実績も積み上げもなければ、やはり無理。まずは地道に活動→そのログをマメにつけてブログやFBページで発信。YouTubeの活用は訴求力高く必須。映像制作力を磨いたほうが良い。ファンを増やす以上、コンテンツ(楽曲)の質の担保は最低条件(うおっと)
  • なぜクラウドファンディングを選んだのか、リワード(支援者にとってのメリット)は何か、その熱意とストーリーに支援者は動く
  • クラウドファンディングに必要予算全額を求めずに、起案者もリスクをとり、起案額を小さくスタートしたほうが成立しやすい
  • 起案者の「ファン」がどれだけいるのか、FBページなどでチェックし、そこからコアファン数を推察。楽観プラン(3%程度?)、悲観プラン(1%程度?)くらいでシミュレーションしてみる
  • 起案額については、高額リワード支援がゼロ件でも成立するレベルをシミュレーション
  • 起案中の細かいフォローアップが、中だるみを防いでくれるはず

と、こんな感じでしょうか。自分がクラウドファンディング起案したこともないのに偉そうなことこの上ありませんが、そんな解釈をしつつ、自身の音楽活動にも役立てたいと思うのでした。

そうそう、アルバムの進捗度合いは、ツアーの様子なども含めてFBページにアップされまくっています。レコーディングの進捗、ミックスの進捗、ミュージシャンとのオフショットなどが細かく見ることができ、今後のベンチマークにもなりうるんじゃないかと思います。これこそが、これからの音楽制作の姿なんだろうなあと感じました。そのためにも、まずは小さな実績を作ることなんだと実感しました。

 

【オマケ】このあとのライブがまた強烈

 

初めて見た頃に比べて、エフェクター関係が充実していますね。

リズムマシーンとコントロールパッド、ローズピアノ、キーボード類があるのはいつもどおり。最近はKORG KAOSS PAD3+を2台使いして、ループ、空間系エフェクターで使い分け。さらにKORG PAD QUADで飛び道具系コントロールをしているようです。母艦のMacでは、BPMコントロールとソフトシンセの切り替えをしていたようです(違ってたらスミマセン)

ライブは相変わらず凄かった。また来日したら、絶対見に行きます。